海外における医療・ヘルスケア業界のIoT活用事例20選

医療

医療・ヘルスケア業界でのIoT(Internet of Things)は、センサーの小型化や通信のワイヤレス化によって、これまでは収集することができなかったデータを大量に蓄積・分析することが可能になることで大きな変化が起ころうとしています。新たな治療法の発見や、新薬の開発や実験・認証に要する時間の短縮、リアルタイムな患者の体調変化のモニターや、病気の早期発見等、人類に大きなメリットをもたらすことが期待されています。一方で、プライバシーや安全性の確保、そして既存インフラの刷新等、難しい課題が多く存在しています。今回の事例では世界で実用化に近づきつつある医療系IoTデバイスの事例や、先駆けて普及しつつあるIoTによる病院業務の効率化の事例を紹介していきます。

世界のラボを繋げる癌研究のIoT「Intel Cancer Cloud」 企業名/Intelアメリカ

Intel Cancer Cloud
http://www.bio-itworld.com/2016/07/11/intels-cancer-cloud-complementing-nci-collaboration.aspx

インテルとオレゴンヘルス&サイエンス大学のナイト癌研究所は共同して、癌の研究を促進する為に、ゲノムに関するデータをクラウド上でセキュアに共有することができる大規模なデータ解析ネットワークを運用しています。患者の個人情報が識別できないように配慮し、クラウド上には患者の個人情報は残りません。研究者は世界中の研究所から大量のデータを集め、インテルが提供する分散型コンピューティングを利用して高度な分析を短期間で行うことができます。期待が高まると同時に、医療分野のIoTの普及に向けては、これまで以上のセキュアなネットワークとシステム、そしてデータを提供する患者個人への丁寧な説明と合意形成が重要になります。

排尿と体温測定を自動化する「UroSense」 企業名/Future Path Medical アメリカ

UroSense
http://www.future-path.net/

Future Path Medicalはアメリカ合衆国オハイオ州の医療機器を製造・販売する企業です。「UroSense」は排尿と体温測定を自動化するIoT医療デバイスです。デバイスから送信される尿や体温のデータはカラダの状態を推し量る重要な要素で、リアルタイムに送信されるデータをクラウド上で分析し、隠された病気の発見、早期の治療開始に役立てることができます。従来は手動で行っていた、不確実でコストが掛かる手法を自動化しつつ、患者にも大きなメリットがある医療IoTの好例です。

服薬を管理する「Philips medication dispenser」 企業名/Philips アメリカ

Philips medication dispenser
https://www.lifeline.philips.com/business/medicationdispensing.html

「Philips medication dispenser」は服薬を管理する医療IoTソリューションです。薬の飲み忘れや誤って過剰に摂取するなどといった服薬のエラーによって何らかの不調をきたす人は、アメリカで年間150万人程いると言われています。このシステムは時間通りに規定量を服薬できるように異なる種類の薬を本体内で分類したり、飲み忘れや飲み過ぎ等のエラーが検知された際には、利用者にデバイスから音声やランプでアラートが鳴ります。同時に、担当看護師にアラートや補充の指示が行われる機能もあり患者の服薬をサポートします。

広い院内で高価な医療機器の位置を可視化する「AirFinder」 企業名/AirFinder アメリカ

AirFinder
https://www.airfinder.com/hospital-rtls

「AirFinder」は屋内に設置された機器や設備のリアルタイムな位置情報を把握する為のソリューションです。病院内には手術器具等の非常に高価で台数に限りがあるデバイスが無数に存在します。紛失時には多大な損害になるだけでなく、広い院内で探すだけで多くのコストを消費します。「AirFinder」はあらゆる機器にBeaconとBluetoothが搭載されたタグを設置し、院内に設置されたゲートウェイから現在地をリアルタイムで送信しクラウド上のソフトウェアで動きを可視化します。スマートフォンアプリも提供し、APIも公開しているので、既存の病院のシステムにインテグレーションすることも可能です。医療向けIoTは研究や治療に関する種類が注目を浴びがちですが、医療現場全体に目を向けるとオペレーション改善にもIoTの活用余地があることが分かる事例です。

Google Glassの完成形「smartglasses」 企業名/Augmedix アメリカ

smartglasses
https://www.augmedix.com/

Augmedixはアメリカのグーグル社がかつて試験的に販売していたGoogle Glassを利用したアイウェア型の医師のサポートシステムを提供します。インターネットに接続され、患者のデータにアクセスが可能です。Google Glassのグラス上には、その時診察している患者の基本情報や検査や診察の履歴が拡張現実として表示され、医師は患者を直に見ながら、必要な情報を確認することができます。これまでPCに向かいがちなドクターの視線を患者に戻し、患者とのコミュニケーションを密にすることを実現しています。音声認識も可能で、診察中に必要とする情報を音声で呼び出すことが可能です。更に、患者との会話の音声データをリモートにいる筆記者が診察記録として書きおこします。患者とのコミュニケーションの質を高めると同時に、膨大な時間が掛かっていた診察記録の作成の時間を大幅に短縮することができるようになりました。

Google Glassで離れた専門家をリアルタイムに呼び出す「Obaa」 企業名/Obaa アメリカ

Obaa
http://obaahealth.com/

「Obaa」の元々のアイデアは、アメリカでプライマリーケアを行うドクターが専門家に助言を求めることができるメッセージプラットフォームでした。しかし、専門家が患者の詳しい状況を確認しないことには適切な助言ができないことから、Google Glassを用いてビデオを送信し、あたかもリモートにいる専門家がその場で患者を診察できるかのような状況を作り出すことを実現しました。動画を利用することで、テキストのコミュニケーションで起こりがちな思い込みや誤解のリスクを下げるとともに、患者が専門家に再診する必要をなくすという点でも大きな価値を生み出しました。

アップルウォッチで院内オペレーションを改善「Simplifeye」 企業名/Simplifeye アメリカ

Simplifeye
http://simplifeye.co/

「Simplifeye」は医療機関向けの患者管理SaaSプラットフォームです。患者の往診予定や待合室で待たせてしまっている時間、基本情報、前回の診察履歴、当日のアジェンダ等、ドクターや看護師が患者に会う前に知っておきたい情報を、システムが適切なタイミングにスタッフのApple Watch(iPhoneも可)にプッシュ送信してくれます。診察室に入る前にこのような情報を把握する事によって、患者との的確なコミュニケーションが可能になり、患者の満足度を向上させることが狙っています。

院内のヒト・モノの動きを可視化する「Awarepoint」 企業名/Awarepoint アメリカ

Awarepoint
http://www.awarepoint.com/

「Awarepoint」は屋内の設備や商品のリアルタイム位置情報マネジメントソリューションです。センサー、Beacon、Bluetooth等を用いて、院内の患者、設備、スタッフの位置情報を可視化し最適な配置やマネジメントを可能にします。病院のオペレーション効率化によるコストの削減や、対応レベルの改善によって患者の満足度向上を実現しています。「高額な医療機器がどれぐらい有効活用されているか」といったデータアナリティクスやレポーティングといったソフト面での機能も幅広くカバーしています。

動きを制限しないバイオメトリクスモニタリングシステム「Earlysense」 企業名/Earlysense イスラエル

Earlysense
http://earlysense.com/

Earlysenseはイスラエルの医療系スタートアップ企業です。彼らが提供する「Earlysense」は患者に装着する必要のないバイオメトリクスセンサーで、患者の心拍数や呼吸器の動き、睡眠といった看護師が常時モニタリングしたい入院患者のデータを、「Earlysense」をマットレスの下に敷くだけで、ナースステーションで常時モニタリング可能になります。患者はデバイスを装着する必要がない為、ケーブル等に動きを制限されることはありません。異常があればアラートを行うため、患者の急変時に素早く対応が出来たり、常時蓄積されるデータの分析によって治療法の選択精度向上等に寄与します。

ワイヤレス子宮モニタリングシステム「Novii」 企業名/Monica Healthcare イギリス

Novii
http://monicahealthcare.com/

「Noviiワイヤレスパッチシステム」はイギリスのMonica Healthcareが製造・販売する、子宮モニタリングシステムです。母体の心拍数や子宮の動きをモニタリングすることが可能です。特許を取得した高性能なセンシングシステムで、たとえ肥満な女性のお腹でも、データの正確性を担保できる技術力に定評があります。パッチ自体に通信モジュールが搭載されているため、ケーブルが必要ありません。患者は自動に移動することが可能かつ、病院の患者マネジメントシステムとも連携し患者の居場所を特定する事が可能です。

湿布サイズのワイヤレスバイオメトリクスモニター「BioStampRC®」 企業名/MC10 アメリカ

BioStampRC
http://mc10inc.com/

MC10はアメリカのマサチューセッツ州発の電子機器メーカーで、主に医療系の研究分野に利用可能なIoTウェアラブルデバイスを開発しています。「BioStampRC®」は湿布サイズのワイヤレスバイオメトリクスセンサーで、研究対象の人物のカラダに貼り付ける事で、様々なバイオメトリクスデータが取得可能になります。ワイヤレスであることから、運動系やリハビリ・回復といった研究に適しています。収集されたデータはプラットフォーム上のダッシュボードで高度に視覚化され、データはプラットフォーム上でセキュアに解析のスペシャリストと共有することが可能です。スターターキットの用意やパッケージデザイン等UIにも優れている事が特徴です。

ワイヤレス心拍数モニター「Zio patch」 企業名/iRhythm アメリカ

Zio patch
http://www.irhythmtech.com/

「Zio patch」はサンフランシスコ発のiRhythm社が製造販売する、手のひらサイズの心拍数モニターパッチです。ワイヤレスかつ防水仕様の為、患者は装着したままシャワーを浴びる等、通常通りの日常生活が可能です。14日間の装着で20,000分のデータを収集することが可能です。ドクターと簡単にデータが共有可能で、iPhoneやPCパソコンのダッシュボードで、心臓の状態を観察することが可能です。これまでは困難だった日常生活における継続的な心拍数のデータ収集が、患者のストレスも少なく可能になり、このデータを解析して得られる成果にも期待が高まります。

遠隔制御で高度な手術を行う「Robotic Surgery」 企業名/Verily アメリカ

Robotic Surgery
http://www.verbsurgical.com/

Googleの持ち株会社であるアルファベット社の子会社で、ヘルスケア・メディカル分野のプロジェクトを進めるVerily社(旧グーグルライフサイエンス)はジョンソン・エンド・ジョンソンと提携し、手術支援ロボットを開発するプロジェクトを開始しています。医療機器メーカーのエチコン社も参加するこのプロジェクトは「Verb」と呼ばれています。彼らはロボットによる手術を支える技術を開発する為の、プラットフォームを構築しています。プラットフォーム上では、Googleが持つ画像解析技術やAIのリソース等をネットワーク経由で利用可能にし、実際に手術を行うロボットから送信されるデータをリアルタイムで解析し、遠隔で制御を行えるレベルを目指しています。

「Handheld blood test」 企業名/フィリップス アメリカ

Handheld blood test
http://www.medicalplasticsnews.com/news/medical-devices/handheld-device-diagnoses-heart-attacks-with-one-drop-of-blo/

フィリップスが開発した手のひらサイズの血液検査機は、心臓発作の予兆を感じた患者が数滴の血液をデバイスに読み込ませるだけで、トロポニンという心臓発作時に血中濃度が上昇するたんぱく質を測定し、医者が処置を判断する際に必要なデータの取得時間を大幅に短縮します。この測定器はオンラインを通じて検査が可能な施設の測定システムと繋がっており、即時測定を開始します。従来の血液検査方法では物理的な移動や情報伝達によって1時間程度の時間を要しましたが、このシステムでは10分程度まで短縮することができ、患者の生存率向上に大きく寄与することが期待されています。救急車や介護施設での導入が想定されるIoTメディカルデバイスです。

コンタクトレンズで血糖値を測定する「Smartlens」 企業名/Novartis スイス

Smartlens
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/060300031/101700014/?ST=health

スイスのNovartis社がグーグルのVerilyそして、Alcon社と提携し推進するIoTメディカルデバイスは、涙の成分に含まれる糖の量を測定し、単独でワイヤレス通信が可能なコンタクトレンズです。実用化されれば、糖尿病患者の血糖値を遠隔で常時モニタリングすることが可能になります。現在、Alcon社の資金難により臨床実験がなかなか進まない状況にありますが、コンタクトレンズの中にセンサーと通信モジュールを埋め込める程の小型化技術は、血糖値モニタリング以外の分野でも応用可能で、引続き大きく期待されています。

IoTで糖尿病の予防を「Diabetes Care Services」 企業名/Medtronic アイルランド

Diabetes Care Services
https://www.canaryhealth.com/medtronic-partnership-for-comprehensive-diabetes-treatment/

世界的な医療機器メーカーでアイルランドのダブリンに本拠をもつMedtronic社が、デジタル健康管理ソリューションを提供するCanary Health社と共同で推進するのは、糖尿病の予防を行う為のソリューションです。Canary Health社のデジタル分野の強みと、Medtronic社のハード面を融合させる戦略的提携は、メーカーのIoT時代への適応の王道パターンです。医療機器販売で販路を持つMedtronic社がCanary Health社のシステムのリセラーになっています。

ウェアラブルIoTデバイスと連携が可能な健康管理プラットフォーム「healthvault」 企業名/マイクロソフト アメリカ

healthvault
https://www.healthvault.com/jp/en

マイクロソフトが提供する「healthvault」は個人の健康管理プラットフォームです。様々なウェアラブルIoTデバイスから取得するヘルスケア関連データや、病院から開示を受けた医療記録の統合管理が可能です。サービス開始は古く2007年ですが、現在でもアップデートを重ねており、スマートフォンアプリやチャットBotにも対応を開始しています。プラットフォーム上からドクターにデータをシェアできるようにもなっているので、往診や入院時の補足資料としても役立てることが可能です。

IoT時代のデータの所有権のあるべき姿を「Hereismydata」 企業名/Radboudumc REshape Center オランダ

Hereismydata
http://www.hereismydata.com/

「Hereismydata」は世界的にシェアが高いSFAベンダーのSalesforceとフィリップス、そしてオランダのRadboudumc REshape Centerが共同して開発した、個人向けの医療データの管理プラットフォームです。IoTの世界では「データの所有権は利用者にある」とする考え方も推進されており、この取り組みでは特にユーザーの関心が高い医療データを、個人が簡単に管理できるように構築されています。プラットフォーム上では各種メディカル×IoT系のサービスを利用して収集されるデータから健康増進に対してのインサイトを得る等の活用ができるだけでなく、自らのデータをどの機関によってアクセスさせるか、自ら選択しコントロールすることが可能です。

血糖値モニタリングの代替案「Miniaturized CGM」 企業名/Dexcom アメリカ

Miniaturized CGM
https://verily.com/projects/sensors/miniaturized-gcm/

「Miniaturized CGM」はグーグル傘下のVerilyとアメリカの医療機器メーカーであるDexcomが共同で推進するcontinuous glucose monitors (CGM)という、継続的に血中のグルコースを測定でき、単体で通信も可能な、2型糖尿病の遠隔モニタリングIoTデバイスです。糖尿病は患者が世界で4億人以上もいる巨大な市場です。両社は小型かつ安価なモニタリングデバイスを開発しシェアをとり、収集される膨大なデータを解析し、更なる治療法の確立に繋げることを狙っています。

医療×IoTを支える「IBM Watson Health」 企業名/IBM アメリカ

IBM Watson Health
https://www.ibm.com/watson/health

IBMワトソンはIBMが提供するコグニティブ・テクノロジーで、言語認識が可能でマシンラーニングに長けた人工知能です。既に様々な産業でIoT/ビッグデータを支えるテクノロジーとして応用がされていますが、メディカル・ヘルスケアの分野でも活躍しています。医療系IoTデバイスから収集される膨大なデータ、過去に世界で蓄積されてきた電子カルテ、ワトソンが既に解析した他の産業から収集される医療とは直接的に関係ないデータ等を解析し、医療の進歩に役立てています。「IBM Watson Health」では、遺伝子、腫瘍(ガン)の研究や、患者の満足度向上など医療分野の幅広い解決に役立てることができるソリューションが既に用意されています。

今回の記事では、医療・ヘルスケア領域の活用事例を紹介してきました。これまで治療が困難だった病気が治療可能になったり、薬が安くなったりといった事が、大いに期待できる医療領域でのIoT(Internet of Things)の1日も早い普及に期待が高まります。日本だけでなく世界で予防医療の重要性が説かれており、IoTを活用したモニタリングや検知は重要な役割を担うと予想されています。今後、IoTのビジネスやサービスでの活用は更に加速する事が予想され、読んで頂いている方が目にしたり、実際に活用したりする機会が増えることは間違いありません。病院等でその変化を目の当たりにする日は近いです。今後も医療・ヘルスケア業界のIoT活用動向から目が離せません。